晴れた日は畑を耕して

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【DM】全国大会2019 Round 2:るるる vs. あーくん

ライター:齋藤 陽

――夢は叶わない。

 45人集まった全国大会。この舞台に立つまで、何人のプレイヤーの夢が散っただろう。
 それを乗り越えてきた彼らだって、全国優勝というたった1つの席を奪い合う以上、残りの44人は笑顔で帰ることなんてできやしない。
 それは誰と当たったって同じだし、友人であればこそ、この場では誠意をこめて迎え撃たなければならない。その覚悟はできている。

 だから、この組み合わせが発表された時も、受け入れるだけなのだ。

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 マッチングを確認した2人は、ゆっくり席に着き、対戦の準備を始める。この2人を知る者なら信じられないくらい静かに、淡々と作業を行う。

0-1。

 自信を持って挑んだ大会は、初戦で呆気なく躓いた。
 もう負けられない状況にありながら、2人共サブマリンで抜ける未来しか見えていない。そんな中、最も当たりたくなかったであろう1人に当たってしまった。それでも倒すしかない。
 準備を終え、おもむろに会話を始める。

「勝ったほう予選抜けね」

「当たり前。優勝の間違いでしょ」

 お互い負ける気なんて微塵もない。

 2人は関東のランカーを集めた、同じ調整グループで練習を行っていた。その中でも、この2人は寝食を忘れるほどの時間を練習に費やした。日によっては20時間を超えるほど練習したりだってした。
 勝手知ったる仲だからこそ、なおさら絶対に負けたくなかったのだろう。

 それでも、この対戦でどちらかの夢は潰えてしまう。

Game

 試合はるるるの先攻で幕を開ける。小考の後、《ボルバル・モモキング》をセットしてターンを返す。持ち込みは勿論、現環境の回答であるJO退化だ。
 対してあーくんは《JO》をマナに置きターンエンド。
 手札に《モモキングダムX》こそないものの、《新世界王の破壊》と《エボリューション・エッグ》、そして《堕牛の一撃》が控えており、万全の準備といったところだ。

 続くるるるは《JO》をチャージしてターンを返し、あーくんは迷わず《モモキングダムX》をサーチする。

 追うるるるも《堕牛の一撃》をセットし、《エボリューション・エッグ》であーくんの背中を追う。マナの色は潤沢。手札に自壊も構えている。ターンが返れば、あとは走り切るだけだ。しかし……

 

――夢は叶わない。

 

 喉から手が出るほど欲しい同系の先攻も、多色まみれの手札では活かしきれない。
 多色を掃いて唱えた、頼みの綱の《エボリューション・エッグ》も、残りの《JO》が盾に全部埋まっていては《モモキングダムX》を回収したって意味がない。
 毎日積み重ねた練習も、たった2試合負けてしまえば報われることはない。

 だからるるるの夢は、るるるが一介のプレイヤーであったら、この時点で終わっていたのだ。

 

 ……るるるというプレイヤーの話をしよう。

 全国大会の権利が配られた2019年、るるるはランキングで権利を獲得したが、実力はそこまで秀でたプレイヤーではなかった。
 デュエル・マスターズを始めた時期も遅く、調整メンバーとはモチベーションが噛み合わないことも多い。いわゆる強豪に顔見知りは少なく、見る人が見たらランキングを走るのは無謀と言える状態だった。振り返っても「あの時の自分は下手だった」と自戒を込めて話している。

 それでもるるるは全国大会に、頂点の輝きにその身を焦がれたのだ。
 だからるるるは、19年の年末年始に19日連続でCSに参加し、文字通りその足で全国大会の権利を勝ち取った。

 可能性がある限り夢は叶えるもの。そう体現したのがるるるの走りだった。

 そこから2年。1人のプレイヤーが、トッププレイヤーになるには十分すぎる期間だ。練習を積み重ねたるるるは、自信を持ってこの場で競い合っている。

 

 閑話休題

 

 それでも、どこまで上手くなっても《JO》がなければゲームには勝てない。ほとんどの人がそう判断するだろう。

 もちろんるるるも自分の手だけでは勝利を掴むことができないと判断した。だからこそ、ここで一つの決断を下す。

「……《キャンベロ》を回収してターンエンド」

 それは、最も信頼のおける対戦相手と対話。

「俺は全部揃っている、お前は突っ込まないと負け」
「どうせ細いハンドだろうけど、もうタイムリミットだから俺の盾と勝負しよう」

 と、言葉に出来ないメッセージを送る。
 勿論ブラフだ。勝ち筋なんてないに等しい。
 これを見て走ってくれたら。手札が細く止まってくれたら。中途半端に刻んでくれたら。
 割り切るしかないような確率を引いてしまい誰もが諦めるような試合だが、るるるは無理矢理にでも勝ちを狙いに行く。
 鍛え上げた実力が、思い焦がれた執念が、存在しなかった勝ち筋をこじ開ける。

 実際、あーくんの手札の進化は《ボルバル・モモキング》が1枚。《進化設計図》はあるが、このターンに走るなら、勿論唱えることは出来ない。

 万が一、《ボルバル》でGSを踏んだら?万が一、後続がなかったら?頭から不安は消えない。
 細い細い負け筋だが、もう負けられない。その前提が、幾度となく交わした2人の会話を加速させる。

 あーくんは考える。
 るるるがサーチにかけた時間を、彼がデッキの何を見ていたのかを。40枚ミラーにおいて有効な《ボルバル》から埋める、不自然なマナ置きを。

 あーくんは考える。
 なぜ《JO》のチャージが2手目なのかを。なぜ多色黒のチャージが3ターン目なのかを。……なぜ、《キャンベロ》を回収したのかを。
 恐らくこの大会に最も時間を費やしたであろう眼前の男が、どんな手札でこのゲームの終着点を見据えていたのかを。

「まあ多分、そういうことなんだよな」

 長考の末、手札から多色カードを1枚マナに置く。
 それは、「お前、持ってないだろ?」という力強いレスポンス。
 《モモキングダムX》に《JO》が敷かれ、後が無いるるる

 いや、元より後なんてなかったのだ。きっとるるるはここまで含めて信頼していた。
 およそ通用しないであろうブラフを、通用したとしても勝てるかわからないブラフを、それでも通しにいくしかなかった。

 だって、それでも捨てきれなかったから。自分が日本一になるという、心からの夢を。

 だから、るるるは見守る。

 ターンを返して《進化設計図》を撃たれた時、《禁断のモモキングダム》が手札に加わった時、《ボルメテウス・モモキング》がシールドを焼く時、その全てをるるるは見届ける。

 最後のシールドを確認すると、深呼吸して言葉を吐き出す。もう自分の夢は叶わない。だからこそ……

「後は頼んだ」

 全てを託して、夢の終わりを受け入れたのだ。

Winner:あーくん

 試合が終わると、即座にハンド読みや山札の状況を検討する。

 それは繰り返された、いつもの風景。

 積み重ねた努力。最後のチャンス。お互いの夢。知り尽くしてるからこそ、託し、受け取り、共に叶えるしかない。
 あーくんはこの後、「必ず全勝する」とるるるに約束し、次の対戦へ向かう。

 

 ――しかし、夢は叶わない。

 あーくんはこの大会を負け越しで終えるし、一緒に調整をした他のメンバーが予選を抜けることもなかった。

 彼らは、その夢を散らして2019年を終える。
 全国大会2019の敗者として、その名を残すことができないまま、歴史は紡がれる。

 それでも、夢は終わらない。

「絶対リベンジしよう」誰からともなく言葉が漏れる。

 何度も延期した全国大会。変わり続けた調整環境。それらを乗り越えた彼らは、最高の舞台で負けてもすぐに次を見据える。

 夢は簡単に叶わない。だけど、夢を簡単に諦めることだって出来ない。だから彼らは挑み、夢を追い続けるのだろう。

 燦然と輝く夢の煌めきに、その心を奪われてしまったのだから。